そもそも電気双極子とは何か
これは辞典にも書いてあるように「十分近い距離に隣接している、絶対値の等しい符号の異なる2つの電荷の組のこと。」ということになりますが、ここではもうちょっと深掘りしてこれがあると電場はどうなるのか、どんな嬉しいことがあるのかというのを見ていきます。
距離\(a\)を隔てた、大きさの等しい異符号の点電荷
状況
静電ポテンシャルを求める
まずは静電ポテンシャルを求めるとしましょう。
静電ポテンシャルには重ね合わせの原理がなりたつため、\(r_1\)が\(r_3\)につくる静電ポテンシャル\(\phi_1\)と、\(r_2\)が\(r_3\)につくる静電ポテンシャル\(\phi_2\)をそれぞれ求めて足し合わせます。
$$\phi_1 = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\frac{-q}{\sqrt{(x+a)^2+y^2}}$$
$$ \phi_2 = \frac{1}{4\pi \epsilon_0}\frac{q}{\sqrt{(x-a)^2+y^2}} $$
よって\(r_3\)につくられる静電ポテンシャル\(\phi\)は
$$\phi=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\left(\frac{q}{\sqrt{(x-a)^2+y^2}}+\frac{-q}{\sqrt{(x+a)^2+y^2}}\right)$$
のように書き表すことが出来ます。
電場を求める
静電ポテンシャルが上記のように求めることが出来たため、
$$\vec{E}=-grad{\phi}$$
を用いて電場を求めてみましょう。
\begin{align}
E_x&=-\frac{\partial\phi}{\partial x}\\
&=-\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{-\frac{1}{2}\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2(x-a)}{(x-a)^2+y^2} -\frac{-\frac{1}{2}\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2(x+a)}{(x+a)^2+y^2}^{\frac{3}{2}}\right]\\
&=\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{x-a}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{x+a}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right]
\end{align}
\begin{align}
E_y&=-\frac{\partial\phi}{\partial y}\\
&=-\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{-\frac{1}{2}\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2y}{(x-a)^2+y^2}-\frac{-\frac{1}{2}\left\{(x-+a)^2+y^2\right\}^{-\frac{1}{2}}\cdot2y}{(x-a)^2+y^2}\right]\\
&=\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{y}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{y}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right]
\end{align}
このように静電ポテンシャルを先に求めた場合は、\(\vec{E}=-grad\phi\)を用いて電場の各成分を求めるのが確実でしょう。もちろん先に電場を求めてから、積分することで静電ポテンシャルを求めることも出来ます。
このようにすることで
$$\vec{E}=\left( \frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{x-a}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{x+a}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right],\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{y}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{y}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right]\right)$$
と電場を求めることが出来ます。
\(a\)に対して十分離れた距離\(r\)ではどうなるか
ここからが本題です。
これらの電荷の組がつくる電場・静電ポテンシャルについて、\(a<<r\)となるような地点はどのようになるのでしょうか。
電荷の組が1つの電荷として見ることが出来そう
図のように電荷の組から十分離れた地点では、2つの電荷を1つの電荷として見なせそう、という予想が立てられる
\(2a<<r\)だから1次近似(テイラー展開)をしてみよう
$$r=\sqrt{x^2+y^2}$$
であることに注意すると静電ポテンシャルの分母は
\begin{align}
\sqrt{(x-a)^2+y^2}&=\sqrt{x^2+y^2-2xa+a^2}\\
&=r\sqrt{1-\frac{2xa}{r^2}+\frac{a^2}{r^2}}
\end{align}
および
\begin{align}
\sqrt{(x+a)^2+y^2}=r\sqrt{1+\frac{2xa}{r^2}+\frac{a^2}{r^2}}
\end{align}
ここで1次近似
$$(1+x)^\alpha\approx 1+\alpha x$$
使います。
すると
\begin{align}
\frac{1}{\sqrt{(x-a)^2+y^2}}&=\frac{1}{r\sqrt{ 1-\frac{2xa}{r^2}+\frac{a^2}{r^2}}}\\
&=\frac{1}{r}\left\{ 1-\frac{2xa}{r^2}+\frac{a^2}{r^2}\right\}^{-\frac{1}{2}}\\
&\approx\frac{1}{r}\left(1-\frac{1}{2}\frac{-2xa}{r^2}\right)
\end{align}
ここで
1次近似式の\((1+x)^\alpha\approx 1+\alpha x\)において 今
$$x=\frac{a}{r},\alpha=-\frac{1}{2}$$
としたことに注意してください。同様の近似をすることで
$$\frac{1}{\sqrt{(x+a)^2+y^2}}\approx\frac{1}{r}\left(1+\frac{1}{2}\frac{-2xa}{r^2}\right)$$
とかけます。
したがって静電ポテンシャルは
\begin{align}
\phi&=\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left(\frac{1}{\sqrt{(x-a)^2+y^2)}}-\frac{1}{\sqrt{(x+a)^2+y^2}}\right)\\
&\approx\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{1}{r}\left(1+\frac{xa}{r^2}\right)-\frac{1}{r}\left(1-\frac{xa}{r^2}\right)\right]\\
&=\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}}\frac{xa}{r^3}
\end{align}
$$\phi=\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}}\frac{xa}{r^3}$$
電場はここで求めた静電ポテンシャルの勾配を取るでも、先に求めた電場について1次近似をするでもすることで
\begin{align}
E_x&=\frac{qa}{2\pi\epsilon_{0}}\left(\frac{3x^2-r^2}{r^5}\right)\\
E_y&=\frac{3qa}{2\pi\epsilon_{0}}\frac{xy}{r^5}
\end{align}
のように表せます。
さらに双極子モーメント\(\vec{p}=q(\vec{r_2}-\vec{r_1})\)を導入するとさらに簡単な式になる
ここでさらに双極子モーメントベクトルを導入してみましょう。
双極子モーメントベクトルを
\begin{align}
\vec{p}&=q(\vec{r_2}-\vec{r_1})\\
&=q\left((a-(-a)),(0-0)\right)\\
&=q\left(2a,0\right)
\end{align}
とすると静電ポテンシャル\(\phi\)は
$$\phi(\vec{r})=\frac{1}{4\pi\epsilon_{0}}\frac{\vec{p}\cdot\vec{r}}{r^3}$$
電場\(\vec{E}\)は
$$\vec{E}=\frac{1}{4\pi\epsilon_{0}}\left\{\frac{3(\vec{p}\cdot\vec{r})\vec{r}}{r^5}-\frac{\vec{p}}{r^3}\right\}$$
まとめ
電気双極子は何をしているのかがわかりにくいかと思いますが、
電荷の組に対して十分遠方では、1つの電荷とみなせる。という近似を使うことで
$$\phi=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\left(\frac{q}{\sqrt{(x-a)^2+y^2}}+\frac{-q}{\sqrt{(x+a)^2+y^2}}\right)$$
↓
$$\phi(\vec{r})=\frac{1}{4\pi\epsilon_{0}}\frac{\vec{p}\cdot\vec{r}}{r^3}$$
$$\left( \frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{x-a}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{x+a}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right],\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\left[\frac{y}{\left\{(x-a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}-\frac{y}{\left\{(x+a)^2+y^2\right\}^{\frac{3}{2}}}\right]\right)$$
↓
$$\vec{E}=\frac{1}{4\pi\epsilon_{0}}\left\{\frac{3(\vec{p}\cdot\vec{r})\vec{r}}{r^5}-\frac{\vec{p}}{r^3}\right\}$$
というように簡単に表すことが出来るというのが大事な内容です。
電気双極子は誘電体を語る上では欠かせませんし、マクスウェル方程式を導出した後、電気双極子による放射を考えるなど、電磁気学において重要な役割を担っているので是非とも押さえておきたいものです。
コメント
E_yの計算をミスしています。他にも符号ミスが何か所かあります。
対数ポテンシャルさん、こんにちは
運営者です。
ご指摘ありがとうございます。
確認・訂正しますので、更新までお待ちください。