【コラム】ダミー変数・ダミーインデックスが出たときに考えること

コラム

ダミー変数だから文字を書き換えて…」がわからなかった過去

講義で「ダミー変数(インデックス)だから文字を置き換えて…」

という説明を受けたことはありませんか。

自分はありました。最初はわかったつもりでいたのですが、年度が替わって別の講義で再びダミーインデックスが登場してはまたよくわからない…という有様でした。

そこでこの記事ではダミー変数・インデックスが登場したときに考えることを書きます。

[mathjax]

ダミー変数・ダミーインデックスとは

定積分・和をとるときに用いる変数・添え字のこと。

例題を見た方が早い

ダミー変数の例

$$\int_a^b xdx=\int_a^b ydy=\int_a^b zdz=\frac{1}{2}\left(a^2-b^2\right)$$

このように定積分をするとき、変数には結局何かしらの定数を代入してしまうので定積分をした結果には変数は現れない。つまり用いる変数は好きに決めることが出来る。このような変数をダミー変数という。

ダミーインデックスの例

$$\sum_{i=1}^n a_i=\sum_{j=1}^n a_j=\sum_{k=1}^n a_k$$

具体例として自然数の集合として\(n_1=1, n_2=2,n_3=3,\cdot\cdot\cdot\)を考えてみましょう。

$$\sum_{n=1}^3 n_i=\sum_{j=1}^3 n_j=\sum_{k=1}^3 n_k=1+2+3=6$$

和の縮約記法(和の規約・アインシュタインの縮約記法、呼び方色々)

ダミーインデックスは縮約記法を用いるときに頻繁に使用されます。
この縮約記法はアインシュタインが導入したことから、「アインシュタインの規約」、「アインシュタインの縮約記法」などと呼ばれることもあります。とにかく名前が多いです。

この縮約記法がどんなものかというと、簡単に言えば添え字が複数出てくる項については和の記号\(\left[\sum\right]\)を省略して書きましょうというものです。3次元や4次元などで、ベクトルの内積を取る際に暗黙のうちに使われることがあります。

\begin{align}
&\sum_{i=1}^3 a_ib_i=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3\\
&\longrightarrow a_ib_i= a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3
\end{align}

ポイントは1つの項の中に、同じ添え字が複数登場する場合に用いることが出来るということです。

そのため

$$\sum_i\sum_j a_ib_j=a_ib_j$$

の場合は縮約記法は用いることが出来ません。

文字を変えられるとはどういうことか

前節をみれば文字を変えることが出来るという意味がわかったと思います。

そうです。
結局和を取ったり、定積分をすることで変数が定数になってしまうことで、結局添え字(インデックス)・変数がなくなるというのがポイントです。結局なくなるのだから、文字はなんでもいいじゃないか、ということなのです。

例題:角運動量の交換関係

例題

\(i\)成分の角運動量演算子\(\hat{l}_i\)は

$$\hat{l}_i\equiv\sum_{j}\sum_{k}\epsilon_{ijk}\hat{x}_j\hat{p}_k$$

縮約記法を用いると

$$\hat{l}_i\equiv\epsilon_{ijk}\hat{x}_j\hat{p}_k$$

と書くことが出来る。\(\hat{x}\)は位置演算子、\(\hat{p}\)は運動量演算子である。このとき交換関係

$$\left[\hat{l}_i,\hat{l}_j\right]=i\hbar\epsilon_{ijk}\hat{l}_k$$

を用いて以下の交換関係を示せ。必要であれば下の公式を用いても良い。

$$\left[\hat{l}^2,\hat{l}_i\right]=\left[\hat{l}_j\hat{l}_j,\hat{l}_i\right]=0$$

公式

\begin{align}
\left[\hat{a}\hat{b},\hat{c}\right]=\hat{a}\left[\hat{b},\hat{c}\right]+\left[\hat{a},\hat{c}\right]\hat{c}
\end{align}

回答例

\begin{align}
\left[\hat{l}^2,\hat{l}_i\right]&=\left[\hat{l}_j\hat{l}_j,\hat{l}_i\right]\\
&=\hat{l}_j\left[\hat{l}_j,\hat{l}_i\right]+\left[\hat{l}_j,\hat{l}_i\right]\hat{l}_j\\
&=\hat{l}_j\left(i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_k\right)+\left(i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_k\right)\hat{l}_j\\
&=i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_j\hat{l}_k+i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_k\hat{l}_j\\
&=i\hbar\epsilon_{kij}\hat{l}_k\hat{l}_j+i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_k\hat{l}_j\\
&=-i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_j\hat{l}_k+i\hbar\epsilon_{jik}\hat{l}_k\hat{l}_j\\
&=0
\end{align}

ポイント①
2行目では問題文で与えられた公式を用いています。

ポイント②
2行目から3行目にかけて、問題文で与えられている交換関係の結果を代入しています。

ポイント③(←超重要)
4行目左辺に注目します。
このときダミーインデックスに注意します。
ダミーインデックスは\(j\)と\(k\)です。これらは結局足し上げられるので、添え字は何でもいいのです。それを利用して4行目から5行目にかけて\(j\)と\(k\)を入れ替えています。

ポイント④
6行目ではレヴィ=チビタの記号(エディントンのイプシロン)の性質

$$\epsilon_{ijk}=\epsilon_{kji}=\epsilon_{jik}=-\epsilon_{kji}$$

を使って変形しました。こうして0とすることができます。

例題では「ダミーインデックスだから添え字を入れ替えて…」を用いるような問題を扱いました。完全にわかった!まではいかずとも、やりたいことはわかった!くらいには進んだのではないでしょうか。

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